だから、言えない



「いつもありがとう。連」
「もう、あいつのこと、
泣かせんなよ」


俺はそのまま部屋を出て、
隣の部屋のドアを開けた。
鍵はかかっていなかった。

「ことちゃん…入るよ…」

返事がなかった。

「ことちゃん?」

ふすまを開けて、中を見ると、
そこにことちゃんはいなかった。

さっきまで、窓辺にいたのに、
どこ行ったんだろう?

そのとき、洗面所の方から
水を流す音が聞こえてきたから行ってみると、
ことちゃんが顔を洗っているところだった。

「あれ?村薗先輩」
「ことちゃん…俺…
言わなきゃいけないことがあって…」

そばに置いてあったタオルが目に入り、
俺はことちゃんにそれを手渡した。

「ありがとうございます。
それで、何ですか?」

きっとことちゃんは
俺が好きなのに、
俺がキスしたことを忘れろって言ったから
泣いてたんだろうな。

「さっきはあんなこと言ってごめんね。
俺、嘘ついた」
「え?」
「ほんとはキスしたこと忘れて欲しくない。
ただの後輩だと思ってるなんて、
嘘なんだ。
俺、ことちゃんのこと…」

ことちゃんは、
胸の前でタオルを握ったまま
俺のことをまっすぐに見つめている。

「ことちゃんが好きなんだ」