「ほんとは音大から推薦きてたんだろ?
よかったのか?」
「だから、音楽のことは、
今後一切話さないでって言ったでしょ。
きっぱりやめたんだ。
これは俺が決めたこと。
高校までやりたいことやったから、
後は父さんの言うとおりにするんだ」
「そうだったな、わりぃ」
連は何となく落ち着いた気がした。
社会人になったから?
「じゃあ、将来は大手企業の社長だな、優」
「分からないけど」
「何だっていいけど、
なりたいもんになれよ」
連は腕に止まった虫を、
人差し指で弾きながらそう言った。
そう、まだこのときは
本気で父さんの言うとおり、
父さんの会社に入るつもりでいた。
だけど、就活を目前にして俺は、
本当に自分が望むことは何か、
悩むようになった。
自分で決めたとはいえは、
俺は本当に父さんのいいなりになりたいのか…
そんなとき、普段行きもしないバーで、
憂さ晴らしに飲んでいたら、
ある人に出会った。
「君みたいな子がバーに来るなんて、
まだ早いんじゃない?」
「普段は来ないです」
「何かあったの?
おじさんでよかったらきくよ」
その人が今の会社の社長だった。
彼は俺と似たような境遇だったことから、
俺の気持ちを理解してくれた。
そして、彼の人生の話を聞いて、
心から尊敬するようになり、
今働くこの会社に
就職を希望したわけだけど、
案の定、父さんには
もう息子でもないと言われ、
捨てたものは大きかった。
だけど、色々悩んで自分で決めた道。
そして、この小さな会社に入って、
俺は親友と一緒に
働けることになったんだし、
なにより、大切なことちゃんと、
再会することができた。



