だから、言えない



清川先輩に聞きました。
村薗先輩は、
吹奏楽部を続けたらだめだと
お父さんに言われてたんですよね?
だけど、高校で続けちゃったから、
お家でひどいこと
たくさん言われてるって…」

清川君、話しちゃったか。

「でも、先輩の背中を
追いかけている子がいるから、
音楽は続けなきゃいけないって、
言ったんですよね?
思い違いならいいんですけど、
その子って、私じゃないですよね?」
「ことちゃんだよ」
「はーぁ…
やっぱりそうですか…」

そのときのことちゃんには
いつもの笑顔はなかった。


「村薗先輩、
ほんとにすみませんでした。

あんなこと、言わなきゃよかった…」
「ことちゃんのためだけに
続けたわけじゃないよ。
理由の一つなだけ。

だけどね、俺はこれで音楽をやめるよ。
トランペットも売ったし、
楽譜は全部捨てた」
「え?ほんとですか?
…なんで、そこまで」
「俺はもう、
音楽してたことを思い出したくない。
切り捨てることにしたんだ。
そうじゃないと、
本気でトランペット奏者になりたいと
思ってしまうからね」
「なったらいいじゃないですか!
先輩ならなれますよ!」
「そういうわけにはいかないんだよ…
ま、俺はやりきったと思う。
だから後悔はないんだ。

あ、一つだけあるかな。
ことちゃんの目標ではなくなっちゃうこと…
だね」
「村薗先輩が音楽をやめたって、
私の目標は変わらないですよ。
あの日、橋の下で、
先輩のトランペットを聞いてから、
何も変わってません。

村薗先輩は…
私の目標で、憧れで、大切な先輩ですよ」


大切な先輩か。

俺もことちゃんは大切な後輩だっだけど、
今はもう、それ以上の存在なんだけどな。