だから、言えない



「北川中出身の、竹本琴香ちゃん」

ことちゃんは、
部屋に入ってきた俺を見ると、
あのいつもの笑顔を見せた。

「お久しぶりです。
む、村薗…先輩」
「優、でいいのに」

立ち上がって
お辞儀をすることちゃんを見て、
橋岡さんが驚いた顔をした。

「あれ?二人は知り合いなの?」
「うん。
小学校のマーチングバンドで
一緒だったからね」
「なぁんだ」
「久しぶりだね、ことちゃん」

元気にしてた?

トランペットは
どのくらい吹けるようになったの?

この高校に入ったってことは、
相当勉強頑張ったんだよね?
お疲れ様。

俺が高校生になってから、
コンクールは見に来てくれてたの?

言いたいことはたくさんあったのに、
俺の口からでたのは、

「これからよろしくね」

だけだった。

多分、ことちゃんが
俺と同じ高校、部活に入ってきてくれたことが
信じられないくらい嬉しかったのと、
大人っぽくなったことちゃんに
ドキドキしたからだと思う。


多分、この頃から俺は、
ことちゃんを、恋愛対象として見始めた。