だから、言えない



「ううん。
もう父さんのことが限界。
この前は楽器を隠されたし、
大切な楽譜もたくさん捨てられちゃってさ」
「何がそんなに
気にくわねぇんだろうな。

優は勉強もちゃんとして、
いつも成績五番以内だったし。
ここらで一番いい高校受かってっし。
やることやってんだから、
好きなことする権利はあんだろ」
「きっと、自分と同じ人間を作りたいんでしょ。
だから、自分がしなかったことは、
させたくないんだ。

父さんはエリートで、
《成功者》らしいし。
いつも自分でそう言ってるんだ」
「エリートねぇ…
俺が思うにさ、
後十年先でも二十年先でも、
親父の理想の人間になりたきゃ、
なる時間なんていくらでもあんだろ?

だけど、高校の部活とか、
青春とか、そんなのは
今しかできねんだ」
「確かに、そうだよね」
「親がどうとかいって、
今しかできないことやらねぇのは、
もったいないんじゃねぇの?

楽器とかなくなって困るもんはさ、
友達の家にでもおかせてもらえよ。
俺ん家は危なくて、してやれねぇけど」
「連…」
「壁にぶつかっていちいち諦めてたら、
この世の中、生きにくくてしょうがねぇ。
うまいことすり抜けて、
自分の好きなように生きりゃいんだよ。