だから、言えない



俺の中学の演奏が終わった後、
控え室へ戻る途中、
自動販売機の前で、
男子と一緒に
立ってることちゃんを見つけたとき、
思わず立ち止まってしまった。

数年会ってなくても、
ことちゃんだとすぐ分かった。

背はあまり変わってなかったけど、
短かった髪は少し伸びていたし、
なんてったって、
セーラー服姿のことちゃんは
すごくかわいくて。

俺が大好きなあの笑顔は
隣にいた男子に向けられていたけど。

「私これにする」
「炭酸なんか飲んで、
演奏聴いてる最中に
隣でげっぷとかすんなよ」
「しないもん!」

仲良さそうだな。
話しかけないほうがいいのかな。

「あ!大西中の村薗君だ!」
「え!ほんとだ!やばっ!
近くで見たら
めちゃくちゃかっこいいじゃんか」

コンクールや演奏会にでると、
他校生に囲まれることがよくある。
俺は小学生のときから
よく賞をもらっていたし、
地元の新聞や情報誌に、
《天才トランペット吹き少年》、
なんて特集されたりしてたから。


「今年のソロも最高でした」
「彼女とかいますか?」
「ちょっと、あんた何聞いてんの?!」


俺に群がる女子達の先に、
炭酸ジュースを握って
俺を見ていることちゃんが見える。

俺のこと気づいたかな?

こっちに来てくれるかな?

なんて、期待して。