だから、言えない



「竹本さん、
今部屋に一人でいると思うんで、
よかったら、あたし、出ておきますよっ。
部屋に二人きりになって、
キスでもなんでも、
好きにしちゃってください」

塚尾が口に手を当てて
くすくすと笑った。

「むしろ、襲っちゃっても
いいかもしれませんね…
竹本さん、押しに弱そうなので」
「……」

こいつ、またこんなこと言って…
とは思ったけど、
このとき俺は、
今日あったことで
苛立っていた。
だからなのか…

「あたしが戻るはずなので、
部屋の鍵は開いてると思います。
じゃ、あたし、ここで待ってますねっ」

エレベーターを降りると、
塚尾はすぐ近くにあった椅子に腰かけた。

「終わったら、
呼びに来てくださいよ」

塚尾なんかの言うとおりにしちまった。

俺は、自分の部屋の前を通りすぎ、
隣の部屋のドアに手をかけた。

あいつを優にとられたくない。
その気持ちが大きくなりすぎて、
俺は部屋の中へ入ってしまっていた。

「おい、入んぞ」