だから、言えない



きっと先輩は、
私が泣いてるのに気づいて、
ここまで連れてきてくれたんだろうけど、
私は先輩にも泣き顔を見られたくない。
恥ずかしいから!

「……」

村薗先輩は何も言わず、
そっと私の頬に手を添えた。

「ことちゃん」

そして、手に少し力をいれると、
私の顔を自分の方へ向かせた。

「っ…」

私の顔は斜め上を見ている状態になり、
涙が頬をつたっていく。

涙でぼやけた村薗先輩の顔は、
なぜかとても悲しくて苦しそうだった。

「泣かないで」

私の頬に添えられた先輩の親指が
私の涙をぬぐった。

そして、気づけば私の唇に、
先輩の唇が重なっていた。


「…??」

村薗先輩のキスに驚いて
私の涙はすぐに止まってしまった。


なんで?!
なんで、先輩、
私にキスなんかするの?!

どついう意味?
もしかして、私の涙を止めるため?


カランコロン…

さっきの下駄の音が
近づいてきていたのは
少し気になったけど、
村薗先輩の唇は
まだ私から離れなかった。