だから、言えない





二月に入ってすぐ、
片林さんが私に、
旅行雑誌を数冊手渡した。

「社員旅行ですね」
「そうだ」

今年は三年に一度の社員旅行がある。

この会社は小さいから
旅行代理店には依頼せず、
自分達で旅行の手配をするんだけど、
なぜか私が、
旅行担当みたいになってる。

「社長が温泉がいいと
おっしゃった」

渡された雑誌を見ると、
温泉地のものばかりだ。

「温泉だったらー、
美肌の湯にしてくださいねぇ」

塚尾さんが、
いすごと私の席に近づいて、
私が見ていない雑誌を手に取ると、
パラパラと開き始めた。

「あ、あとー、
脱衣場にウォーターサーバーが
あるとこじゃないと無理です。
途中で水飲むんでぇ」
「塚尾!お前は黙っとけ」

片林さんが言うと、
塚尾さんは口を尖らせた。

「佐山さんと飯田さんは、
何か希望はありますか?」

と、言いながら、
私は村薗先輩にちらっと目をやった。