「しっ!」
俺が耳元でそう言うと、
竹本は頷いた。
そして、扉が引かれる音がする。
なんだよ、ふうちゃんは、
専務の部屋が嫌いなんじゃねーのか?
部屋の中に入ってくる足音がすると、
あいりが扉の隙間から
外の様子をうかがった。
「あれ?おじいちゃんだ」
なんだよ、専務かよ。
三人ともほっとして
ふーっと息を吐いた。
結局俺たちは見つからず、
鬼が降参した為、
押し入れから出ることができた。
狭かったけど、
楽しかったし、
竹本とくっつけたのは収穫だったな。
かくれんぼは終わり、
専務の次男とも会って、
みんなそろって昼食にそばを食べた。
そういや、
年越しそばのことは知ってたけど、
そんなの今まで
一度も食べたことなかった。
だけど「年越しそばだね」と言って、
ただのそばを食べると、
大晦日な感じがするのが不思議だ。
昔から、俺の生活の中に
大晦日、正月、節分、こどもの日といった
季節の行事は皆無だった。
12月31日は、
いつもと同じ1日。
特別することもないし、
年が明けたという考えもない。
だから、今日、年越しそばを食べて、
日付が変わって
明けましておめでとう、と言って、
明日おせち料理を食べれば、
ただの二日間が、
一年の最後と最初という
特別な日になるんだなと感じた。



