だから、言えない



「私あのとき、どうかしてたんです。
弟を殺そうって本気で思ってました。
でも、いつも相談にのってくれていた
飯田さんが言ったんです。

そんな奴のために、
私が犯罪者になって、
人生捨てなくてもいいって。
戦うより逃げろって」

竹本の手の力が抜けたから 、
俺は手を開いて指を絡めた。

かわいい、小さな手だな。

「飯田さんは一緒に
一人暮らしの部屋を探してくれたんです」
「お前、ほんと飯田さんと仲いいよな」

俺が言った。

「とても優しい人ですよ。
飯田さんのお陰で、
私は今こうやって、
毎日楽しく過ごせてるんです」

竹本が俺に微笑みかけた。
やっぱり竹本の笑顔を見ると、
ドキドキして、顔が熱くなる。

「実家に帰らなくていいんです。
両親とは明日食事にいきますし、
連絡もとってますしね」
「そっか…」

そういえば竹本、入社当初は
実家から通っていたみたいだけど、
いつの間にか一人暮らしになってた。

じゃあ、あの頃、
こいつはこんな大変な思いでいたのか…
いつも笑ってるから
全然気付かなかった…。

気づいてやりたかった…

そして、俺はふと、
親父のことを思い出した。
毎日パチンコへでかけていき、
負けた日は決まって
俺をサンドバッグ代わりに
殴ってたっけ…