だから、言えない



「でも…」
竹本の呼び止めは無視して、
俺は先に中へ入った。

こいつと絡むと、
調子狂うんだよな。



事務所の中では、
いつものように塚尾が喚いていた。

「もう、ほんと、最悪!
雨のせいで
髪の毛ボサボサになったー!」

塚尾… 本当うぜぇなあいつ。
特大の鏡を目の前に置いて、
前髪を引っ張ってやがる。

竹本が入ってくると、
塚尾が竹本をじっと見つめた。
「竹本さん、髪、
すごいはねてますよ。
気にならないんですか?」
「え、本当?
…まぁ、はねてるなら気になるけど、
どうしようもないでしょう?」
「うわぁ、やっぱ、
見た目気にしない女は神経強いですね。
そんなに髪はねてたら、
あたしなら
恥ずかしくて家に帰りますよー」

そう言われて、
竹本は自分の髪を心配そうに触った。