だから、言えない


「おう…お疲れ」

優はそのまま部屋から出て行った。

優…。
あいつはいつも
周りの人のことを気にしてて、
ほんとにすげぇやつ。

だけど時々心配になる。

あいつ、ちゃんと
自分のこと見えてんのか?





その日は大雨だった。
傘はさしてたけど、
風もあったから、
ずぶ濡れになって職場についた。

事務所の入り口で
ちょうど傘をたたんでる
竹本が目に入った。

「おはよ」
「佐山さん。
おはようございます」
「すげぇ雨だぜ」

竹本も顔や髪の毛が濡れていて、
なんか新鮮だった。

「佐山さん」
と言うと、
竹本は自分の鞄の中に
手を突っ込んだ。

「よかったら使ってください」

俺は目の前に差し出された
淡い黄色のタオルを見つめた。

「は?」
「びちょ濡れじゃないですか。
よかったらこれで
拭いてください」