私は心の中で、ここには似合わない「あんたがたどこさ」を歌い始める。
なかなかシュールなのは分かってる。けど、飛鳥を救うためならどんなにシュールでもいい。
あんた方何処さ、肥後さ、肥後何処さ、熊本さ、熊本何処さ、せんばさ
せんば山には狸がおってさ、それを猟師が 鉄砲で打ってさ、
煮てさ、焼いてさ、食ってさ
それを木の葉で チョッとかぶせ
それを繰り返す。
息を吹き込むのはやらなくていいと言われたので、私はひたすら胸骨圧迫を続ける。
少ししかやったことがないから分からなかったけれど、おじさんが冬にも関わらず汗をかいていた理由が分かった。心配蘇生は思ったより辛かった。
「AED持ってきました」
と、おばさんがやってきた。
「ありがとう。電源をつけてくれるかな」
とおじさんが言う。おばさんはポチッと電源のボタンを押したのか、
「呼吸を確認してください」
と機械的で落ち着いた音声が聞こえてきた。
私は心配蘇生をやめてその機械の通りに飛鳥の胸をはだけさせて怪我している場所に触れないように電極パッドを貼りつける。
「心電図を解析しています。傷病者から離れてください」
と言われ、私たちは飛鳥から手を離す。途端に辺りが静かになり、皆が緊張しているのが分かった。
「電気ショックを与えます。ボタンを押してください」
私は誰も飛鳥に触れていないことを確認し、ボタンを押した。
ばこんと跳ねる彼を見るのが悔しくて、つらくて。
「胸骨圧迫を続けてください」
抑揚のない言葉がAEDから出てきた。
それはまだ心臓が機能していないことを意味していた。
なんで。なんで心臓が動かないの。その言葉に泣きそうになった。もう、胸骨圧迫をしようとしても、力が入らなかった。
「お嬢さん、ありがとう。私が変わるよ」



