海の向こうで





黒色の車が軽々と飛鳥を轢いて、彼はほんの一瞬だけ空中を跳び、私が何か行動を起こす前に地面に叩きつけられた。



「…!」




何か言いたくても声にならない。



嘘、だよね…?



車は止まるだろうと思えば、何も無かったかのように止まらぬまま逃げ去っていく。



轢き逃げだ…!



そう気づき走ろうとしたが、私の足じゃ到底あんな車に追いつけない。



だから、まずは車のナンバーを覚えることにした。



×××。



それが、その車のナンバーだった。



…会ったら絶対に、…。



でもそんなことでモタモタしている場合じゃない。あいつらが逮捕されるより飛鳥の命の方がよっぽど大事だ。私は慌てて飛鳥に駆け寄る。



飛鳥はひどい状態で倒れていた。彼は全身から夥しいほどの出血をしていて、みるみるアスファルトが暗赤色に染まっていく。



あまりにも悲惨な光景に、ぶるっと寒気がした。



「飛鳥!おねがい目を覚まして!飛鳥!!!」



私は飛鳥の肩をぽんぽんとやさしく叩いた。




理由は強く叩くと飛鳥の怪我が悪化してしまうかもしれないから。



「…」



飛鳥は何も反応を示さない。ただ倒れているだけでピクリとも動かない。



そんな。



「…っねえ!おねがいだよ、目を覚ましてよ…」



私の目から大粒の涙がぼろぼろと流れ出した。



なんで目を開けないの?



目を開けてよ。



「お嬢さん、私も手伝うよ。何かいらない布とかあるかな?」



と駆けつけて来てくれたのは40代くらいのおじさん。



きっとさっきの音を聞いて駆けつけてきてくれたのだろう。



よかった…こういう時ってだれも助けてくれなさそうな気がしてたから、少しだけ気持ちが落ち着いた。



「あ、ありがとうございます…これでもいいですか?」




私はカバンからハンカチを取り出した。



「申し訳ないけど、使わせてもらうね。そして君はここで私と交代交代で胸骨圧迫をしてくれ。あなたはAEDを持ってきて。で、あなたは119番通報をしてくれ」



おじさんがてきぱきと周りの人に指示を出す。



私は言われた通り、おじさんの近くでおじさんが胸骨圧迫をしているのを見る。かなり飛鳥の胸が沈んでいるのを見て、肋骨が折れてしまっているのかと心配になった。




飛鳥…。



ぎゅっと力強く自分の唇を噛む。