彼はいつも私を気遣って、とても優しくしてくれている。

 話していても楽しいし、私も笑顔を浮かべられるだろう。

 ――だけど。


「ドキドキしない……」

「え?」

「瞬くんと一緒に居ても、暁斗の時みたいにドキドキしないよ。私にそういう器用なことは、無理みたい。私が好きなのはやっぱり暁斗なんだよ」


 そう言うと、沙也加は筆をパレットの上に置き、なぜか泣きそうな顔になって私を見つめてきた。

 そしてがばっと私に抱き着いてきた。


「さ、沙也加!?」

「花梨~! あんたって本当にピュア! 純粋すぎるー! もうもう! 暁斗くんいつまでも何やってんのよー! 早く私の花梨を幸せにしろっ!」

「あ、あはは……。ありがとね、沙也加」


 ふざけたノリだったけれど、沙也加が本心でそう言ってくれているのは伝わってきて、本当にありがたかった。

 たぶん沙也加が居なければ、ひとりでこんなことを抱えていた私の心は、とっくの昔に折れていた。

 ずっと支えてくれている沙也加のためにも、私のこの気持ちは大切に無いといけないなと心から思ったのだった。