「生意気言ってんじゃねぇぞ、クソ……ゥガアアァッ!?」
「あ、なんか言ってた? ごめんね」
男のみぞおちの下あたりを、右足で思いっきり強く踏みつけた。
さっきからやけにそこをかばってたよね。
あたしたちが駆けつける前に、魁運が攻撃したんだろうな。
痛い? 痛いよね。
魁運の攻撃が生半可なわけない。
あたしがトドメを刺して楽にしてあげるよ。
復讐する気もなくなるくらい。
「や、やっ、め……ろ……!!」
「ねぇ、知ってた?」
「ォエ……ッ、」
右足に全体重をかけ、グリグリとこすりつける。
あたしは不敵に笑う。
「負の感情が多いほど、幽霊は寄ってきやすいんだよ」
「な、なに……を……っ」
「あんたとか、真っ黒」
男の感覚はとうにイカれている。
この寒気が、殺気によるものなのか、悪寒なのか。
はたまた、怪奇現象なのか。
判断つかずに、得体の知れない脅威だけは鮮明に感じ取れているようだった。
そこに追い打ちをかけるように、ゆらりとあたしの腕が伸びる。
「また何かしでかすもんなら、呪っちゃうよ」
「あ………あ……ぅ、っ」
「――あたしが、ね」
男の震えきった心臓に、トン、と人差し指を当てた。
瞬間、白目をむいた男は、泡をふいて倒れた。
弱すぎワロタ。
「ひとみ!」
おっと。魁運がこっち来ちゃう。
あわてて男から足をどかした。
「ここにいたのか」
「は、ハンカチ、落としちゃって」
「見つかったか?」
大きくうなずくと、手を差し伸べられた。
「なら、帰んぞ」
「え。え……!?」
「手、つないどかねぇと、どっか行ったとき気づけねぇだろ」
バッキューン! バッターン!
はい、悶絶。一撃でケーオー。
照れながら手つなぎの要求!
無理やりくっつけた口実に陶酔!
さっきはあたしから握った手を、隙を見てすり抜けさせてこっちに来たことは、ノーカンね! もう離さないよ!
ムードもクソもない、生きた屍の転がる路地で、魁運と初めて恋人つなぎをして帰った。



