雨の中、橋の上で傘をさしてくれた、あのときから。
気づいていた。
彼の背中に憑いた、不透明な人影に。
呪われている――。
その言葉が適切かは定かではないけれど。
黒くぼやけたソレは、今、確実に、魁運を取りこんでいる。
赤いピアスとは反対側から、不穏な面影が肥大化していく。
ビル風が強くなった。
砂ぼこりが立ち、男の皮膚を切る。
「な、なんだ……こ、これ……っ」
「ひとみん、一旦離れ……って、ちょっと!」
うろたえる男も、距離を取るマユちゃん先輩も、視界からはずした。
見つめるのは、ただ一点。
苦しそうに拳を握る、魁運だけ。
こんなときだって離れたくないよ。
魁運はあたしが困ってるとき、助けてくれたね。
あぁ、あたしの神様。
今度は、あたしが。
「ねぇ、魁運」
硬くなったその拳を、あたしの手のひらでていねいに包みこむ。
右手と左手で、ぎゅうっと。
あたしの体温をあげる。
「帰ろう?」
「……っ、」
色素のうすい茶色い目に、やっと、あたしが留まった。
ひとみ、と血色のわるい唇がかすかに動く。
「うん、あたしだよ。ひとみだよ」
「…………っ、あ、」
陰りを帯びた雰囲気がうすれていく。
ほっとした、そのとき、あたしの手の中から拳を引っこめられた。



