死んでもあなたに愛されたい







8年後――





「お、お嬢……!!」




いつもどおり夏の風物詩のせめく、優雅な夕方だった。


物々しく構えられた、日本家屋。

その奥にひときわ清潔に、麗らかに整えられた一室に、ぽつんと一枚の手紙が残されていた。


……というか、それは、なんというか。

ゴミかと見間違うほどの雑なメモ用紙。
ミミズの張ったような筆致。


明らかに、手抜き。



『父さんへ。


あたしは自由になりに行きます。
探さないでください。ぜったい。まじで。
恨むなら、変な育て方をした自分を恨んでください。

あばよ。


白雪ひとみ より』




「い、いやいや! あばよってなんですか!?」




空っぽになった、だだっ広い部屋。

そこにひとりの少女――お嬢の姿がない。


見当たらない! 影も形もなくなってる! なんなら荷物もなくなってるし!


頭を抱えた。畳にひざをつき、いかにもショックを受けている様になる。

ちょっと前なら舌打ちのひとつやふたつ、いいや10回は軽く打っていただろう。




「ついに逃げたか……」




いつかは、って思ってたけど。まさか本当にやるとは。


最初はあんなになついてくれてたのに、いつからこんな反抗的に……。

お兄ちゃんは悲しいよ。おいおい。


なんて、嘆いていても無駄だ。


こうしている間にもお嬢が何かに巻き込まれているかもしれない。

外は危険だ。

お嬢にとっては、きっと、もっと、ほの暗い闇で満ちている。



俺の命に代えても、守らなくては。

なにより、お嬢のために。




「とりあえず組長に報告だ」






蝉の啼く夏が、終わろうとしていた。





<END>