あぁ、楽しいな。
何にも押し殺すものがないって、こんな気持ちいいんだな。忘れてた。
本当に。
夢かと見間違うほどの――
「こんの愚図が!!!」
――バシンッッ!!
帰路についてすぐ、頬に強烈な痛みが走った。
吹き飛んでいたツバが、目に入る。
息をする暇もなく、みぞおちに圧がかかる。
わるい夢?
否。
「おめえ、今までどこほっつき回ってた!? あ!?」
「……す、すみま」
「自分の立場、忘れたのか!?」
そうだ。……そうだよ。
これが現実だ。
「おめえのせいでウチが潰れてもいいっていうのか? あぁ?」
「……いえ、」
「昨日のミスもほったからして、何様だ?」
「あれは直し……!」
「どの面下げて口答えする気だ?」
「……ッ」
蹴られてる。
殴られる。
コンクリートの床に、俺の頭をこすりつけて、踏みつける気だ。
ジンジン。ピリピリ。ズキズキ。
痛くて、痛くて、……痛いのに。
夢から引きずり出されても、どれくらい痛いのか、自分ですら理解できずにいる。
それがいつものこと。
俺の、最低最悪な、日常。
「いいか? これぜんぶ、おめえがやっとけ」
「……はい」
「終わんなかったらどうなるかわかるな?」
「……、はい」
大量に置かれた白紙の紙。
染みついたインクのにおい。
そして、俺を見下す、肥えたオス豚。
「手ぇ抜くんじゃねぇぞ」
殺るだけ殺って、男は部屋を出て行った。
……だから帰りたくなかったんだ。



