顔を上げると、淡い光が魁運に重なった。



チュ、と。

音が立つことなく、スイレンさんが魁運のおでこにキスをして。


いつくしみながら抱擁する。



魁運を、そしてあたしを見つめる彼女の眼差しには、もう、未練も後悔もない。




「あ……」




白くてきれいなスイレンさんの手が、離れていく。


遠く、遠く。

昇って、消えていく。


空の向こうへ。




「魁運……」


「あ、あれ? 俺、どうして……っ」




つ、と流れ落ちた涙が、魁運の頬を濡らす。

わけもわからず泣く魁運を、何も言わずに抱きしめた。



さようならは言わない。


出逢いはめぐる。

一度愛したなら、終わりはない。



清らかな心は、ずっとそばにある。




「あ、ねぇ、魁運。ネックレスが……」


「え? ……あ、花が、」




魁運の胸にかけられたネックレスが、かすかに揺れた。



真ん中で咲きほこっていた、ドライフラワー。

儚くきれいな、スイレンの花。


その白い花弁が、ゆっくり、閉じていく。




「どうして……閉じるはずが……」


「もしかしたら、ちょっとだけ、眠りたくなったのかもね」


「え……?」




次に咲くときがくるならば。

また、生まれるんだろう。


あの真白なまでの想いが。




「さ、魁運。後始末して、体育祭再開させよ!」


「いや、再開は難しいんじゃ……」


「あたしたちの二人三脚、みんなに見せつけなきゃ! それにお弁当も食べてもらってないよ! ……でしょ?」


「……ああ、そうだな」




それまで、あたしたちは。


終わりを知らないまま、愛でていようか。