「きみ! ちょっと見て!」
「あ?」
「隣! ほら! 見て! 悪魔の顔!」
あわてて兵吾郎が指差してきたタイミングで、あたしは下唇を出し、きゅるるんと魁運に上目遣いする。
悪魔ってなあに?
おじさんの言ってることよくわかんなあい。
「意味わかんねぇことほざいてんじゃねぇよ」
「いやいやいやいや!!」
してやったり。
ここにおまえの味方はいねぇんだよ。
ざまあみやがれってんだ。
「くたばれ」
「す、ストップ! ギブです! ギブギブ!」
骨が折れる直前で、兵吾郎は白旗を上げた。
惜しい。あと少しだったのに。
先にあたしの右手首が解放されると、魁運も手を離した。
兵吾郎は自分の腕をさすりながら、骨に異常がないことを確かめ、ほっと胸をなでおろした。
情けなく見えても、仮にも白雪組の組員なら、やり返そうと思えばすぐにやり返せた。
毒林檎の会ならなおさらだ。
ここで引くということは。
おそらく、ヤツは気づいた。
あたしが、ここに、縄張りを築いていることに。
「……今回は、見逃します」
「今回だあ?」
「きゃーこわーい」
「…………、えー……、次は必ず連れて帰りますので」
「誘拐宣言こわーい」
「次来たらまじで骨へし折るかんな」
「…………で、では、そういうことで」



