……うるうるさせてるのに、今回は、そらさないの?




「あ、あのときも今も、よくわからない、けど……」


「けど?」


「“大丈夫”になったみたいで、ほっとした。……し、しました」




ぷるぷる震えた足で、および腰で。

それでも、あたしのこの瞳を、しっかりと見ようとしてる。


怖くても、怖いなりに、向き合ってくれてる。




「影野さん、ありがとう」




それなら、あたしも。

そらさずに、目を合わせるよ。


誠意には誠意で返さないと。




「わ、わたし……あの……ご、ごめんなさい……っ」


「え、あ、ちょっ」




……言い逃げされた。




「影野こっち来い! こっちだ!」

「よーしよし、おかえり! 無事だね!?」

「急にどうしちゃったのさ!」

「怖くなかった?」



「……怖かったけど、怖くなかったよ。でも、言わなきゃいけないことの8割も言えなかった」




影野さん、行っちゃった……。


今は、教室の隅でクラスメイトに囲まれながら、カーテンにくるまってる。



さっきの『ごめんなさい』は何に対してだったんだろう。

いろいろありすぎてわかんないや。


歩み寄ってくれたのは、ちゃんと伝わった。



みんな変わってないと思ったけど、ほんのちょっとは変わってたんだね。




「でもさあ? あたしと目を合わせるより、魁運とのほうが断然怖くないと思うんだけど」


「なんでだよ」


「だって! 魁運の目、きりっとしててかっこよくて、きれいに整ってて、やさしい色してるし、まつ毛も長いし、それに……」


「ま、待て! 俺のこと殺す気か……っ」




まだまだ言えるよ。
目だけで、いいところ100コはいける!

ずうっと見てられるもん。


あ、でも、あたし以外と長く見つめ合ってたらヤキモチ焼くかも。……うそ。かも、じゃない。ぜったい。



近い未来、魁運にやさしい世界ができるとして。

あなたは変わらず、あたしのことを見ていてね。



指切り、約束。