苦しいくせに。
泣けばいいじゃんか。
あたしだけでも、わかってあげたかったよ。
誰よりも、何よりも。
護らなきゃいけなかった。
目の前で着実におとろえていく、あの子が、がんばりすぎてしまう前に。
さら、さら、と髪がなびいた。
下から湧き立つ、肌寒い秋風。
その流れにゆだね、ヴェールを華麗に広げた。
夜空へ舞い上がっていく。
さながら薄紅色のオーロラが、あたしたちのすべてを覆い尽くす。
「ひぃちゃんなら……来てくれるって、思ってたよ」
「つぅちゃん……」
今だけは、ふたりだけの世界。
ぽろり、と。
純度の高い涙が、ひと粒流れても、誰もわからない。
あたしにしか、見えないよ。
泣き跡が乾いてしまうより早く、口を近づけた。
つぅちゃんのまぶたに、そっとキスを1回。
あたしは困ったように破顔してみせた。
ひらり、ひらり。
ヴェールの裾が落ちてきた。
覆っていた中から現れたのは、つぅちゃんひとり。
「美しい……」
「女神様みたい!」
「ああ、神よ……!」
お客さんの注目が集まっているうちに、あたしはそそくさと舞台裏に隠れた。
赤羽くんを手配させたビルのほうから、黒い気配が失せた。
赤い光線もちゃんと消えてた。
これであたしがそばにいなくても大丈夫なはず。



