「そんなこと気にしなくていいよ。僕があげたかっただけでから」


「ありがとう」


少し泣きそうで潤んだ瞳の紗羅。



もう一度、さっきよりも強く抱きしめて囁く。


「紗羅。——大好きだよ」


僕が言って、いつも通り「わたしも好きだよ」と返してくれるかと思った。


けれどもその予想とは反対に、抱きしめていた紗羅の体は離れて間に空間ができる。


「紗羅?」


突然の行動に驚きが隠せない。


彼女の下がっていた目線が僕とぶつかったと思うと、



「——世那」



彼女の口から聞きなれない僕の名前と今までで1番の笑顔。

そして唇の柔らかい感触。


それは僕を固まらせるのに十分だった。



少しして離れる唇。