トントン。

「今日は休めば良かったのに、出てきたのか?」

呼んでもないのに、ノックの返事を待つこともなく入ってきた徹。


「昨日はすまなかったな」

言いたいこともあるが、まずはそう言うべきだろうと思えて、頭を下げた。

「いいさ、貸し1つだ」
「はあ?」

きっと冗談なんだろうが、笑えない。

「あいつと話せたのか?」
「ああ」

「で、どうするんだ?」

「どんなに説得しても、秘書に戻る気はないらしい」

「諦めるのか?」

「いや、気長に説得する。麗子がいなくなれば俺の仕事に影響が出るから」
「だろうな」

フン。
俺だって彼女の有能さは分かっている。
今さら手放す気はない。

「それで、お前達は別れるのか?」
「・・・」

随分あっさり言われて、答えに詰まった。

「そんな訳ないわな」
「ああ」

「ハハハ。お前が女を追いかけて仕事を切り上げて帰ってくるなんて」
おかしそうに俺を見る徹。

「悪かったな、勝手に笑っていろ」

普段なら絶対にこんな事は言わせないが、今はしかたがない。
徹には醜態をさらしてしまったし。

「それで、あいつは今どうしているんだ?」

「ばあさんが管理しているマンションに隠れている。夕飯を用意しておくって言っていたから、お前も来るか?」

「いいよ。お邪魔虫にはなりたくない」
「そうか?」

きっと喜ぶと思うがな。