USBメモリを差して操作し、奏先輩を見る。

こちらを見ていた奏先輩と目が合った瞬間、奏先輩が優しく微笑んでくれた。

奏先輩の目が大丈夫って言ってくれてる。

私は一瞬で緊張がほぐれていくのを感じた。


この曲は私のベースから始まる。

静寂を切り裂くティンパニ。

そこへ奏先輩が加わり、物語が始まる。

2時間の映画を5分に凝縮した壮大な物語を奏でる。

私が鍵盤から顔を上げると、いつも奏先輩と目が合った。

奏先輩が見守ってくれてる。

奏先輩と一緒。

あっという間の5分だった。


リハを終えた私たちを(ゆう)先生が迎えてくれる。

「良かったよ!
2人の息もぴったりだったし。
この調子で、午後の本番も頑張って!」

「はい。」
「はい。」

返事の声も揃って、私たちはお互いの顔を見合わせた。

「ほんとに美音、すごく良かった。
本番もよろしくな。」

そう言って奏先輩は私の頭にポンと手を置いた。

「今日は、せっかく綺麗にしてもらった頭を
崩すわけにいかないからな。」

ふふっ
今日はくしゃくしゃ頭を撫でるのはやめてくれたんだ。


「美音ちゃん? 奏の母です。
なんか、奏がわがまま言ったみたいで
ごめんなさいね。
でも、演奏を聴いて分かったわ。奏が何で
あんなに美音ちゃんとのアンサンブルに
こだわったか。
本当に奏のわがままを聞いてくれて
ありがとう。
本番も奏の事、よろしくお願いしますね。」

奏先輩のお母さん!?

私は、一気に緊張する。

「いえ、こちらこそ!
奏先輩に誘っていただけて、嬉しかった
です。
本番も頑張ります!」

私はぺこりと頭を下げる。

そばにやってきた母も一緒に頭を下げる。

「まぁまぁ、奏くんのお母さんですか?
美音の母です。
いつも奏くんには美音の勉強まで見て
もらって助かってるんですよ。
本当にありがとうございます。
エレクトーンも上手で、お勉強も出来て、
いい息子さんですね。」

「いいえ、もとは奏のわがままから始まった
事ですから。
巻き込んでしまってごめんなさいね。
どうです?このあと、一緒にランチでも。」

奏先輩のお母さんに誘われて、私たちは一緒に近くのレストランへ向かう。

お母さんたちが世間話に花を咲かせる中、私たちはほぼ無言で食事を終えた。

おばさんって、何で初対面の人とあんなに話せるんだろう。