翌日、部活の後、知恵が遊びに来た。

「あら、知恵ちゃん、久しぶり。
いらっしゃい。」

「あ、おばさん、こんにちは。」

智恵とは4歳から同じ音楽教室だったから、母も智恵のことは幼い頃からよく知っている。

「智恵ちゃん、今、ケーキが焼きあがったん
だけど、食べる?」

母がそう言うので、そのままダイニングで母のお手製のシフォンケーキを食べることにした。

母はケーキを切り分けながら、智恵に尋ねる。

「ねぇ、智恵ちゃん。
智恵ちゃんから見て、奏くんてどんな子?」

「っ!! お母さん!!」

私は慌てて叫ぶけど、智恵はすでに反応していて、

「奏くんって、奏先輩のことですか?」

「そう。
学校では、どんな子?」

母の質問を受けて、智恵が私をチラッと見る。

そうして、智恵はにっこりと笑って言った。

「すっごくいい人ですよ。
優しいし、責任感もあるし、勉強もできる
し、かっこいいし。
ただ、その分、とっても女子から人気が
あって、この間も美音、2年の先輩に問い
詰められて大変だったんですよ。」

「そうなの?美音。」

お母さんが私を見る。

「え、そんな大した事じゃないよ。
ちょっと聞かれただけで… 」

「聞かれたって何を?」

「……… なんで奏先輩が私を名前で呼ぶのか
って。」

「っ! ああ! そうね。
なんで?
この間まで、奏くん、森宮って呼んでた
でしょ?」

「ん、それは、奏先輩が名前で呼んでも
いいかって聞くから…
別にいいかな…って思って。」

私がそう答えると、智恵が割って入った。

「おばさん。おばさんは、なんで奏先輩の
事、知ってるんですか?」

「え? だって、毎週うちに来てくれてる
から。
って、美音、智恵ちゃんに言ってないの?」

母が驚いたように私を見る。

「え、だって、聞かれなかったし… 」

嘘。
なんとなく、智恵に言うのが気恥ずかしかったから。

「美音、それは言ってよ〜。
いつから付き合ってるの?」

智恵に言われて私は固まった。