「じゃあ、とりあえず、これ、和訳して
みて。」

奏先輩は、答えをノートで隠して私に英文を見せる。

「えっと… 」

私がたどたどしく訳すと、

「うん、できてる。
でも、何で後ろから戻ってくるの?」

と言われた。

「え? だって、主語を訳したら、後ろから
戻るって習ったよ?」

違うの?

「うーん、それも悪くないんだけど… 」

奏先輩はノートに"I love you"と書いた。

「これさ、森宮風に訳すと、
『僕は君を愛してます』ってなるけど、
前から順に訳してみると、『僕は愛してる、
君を。』ってなる。
これでも十分意味は通じると思わない?」

「っ! ほんとだ!」

「日本語って、すごく自由なんだよ。
難しく考えなきゃ、誰でもできる。
だから、特に長文の読解は、前から訳して
来た方が早いし間違えない。
もちろん、テストの解答は『僕は君を
愛してる』にしないといけないけど、それも
意味さえ分かってれば、書く直前に順番を
直すくらいはできるだろ?」

「うん!
……ねぇ、奏先輩、"I"って、『私』じゃ
ないの? 『僕』?」

だって、学校では『私』って習ったよ。

「英語は、僕も私も俺もみんな"I"。
だから、『俺はお前を愛してる』でも
もちろん正解。」

俺はお前を愛してる…

どうしよう。
私が言われたわけじゃないのに、ドキドキする。

「森宮? どうした?」

「いえ、別に。」

「顔、赤い? 熱でもある?」

奏先輩は心配そうに腕を伸ばして私のおでこに触る。

「大丈夫。」

私は顔を引いて奏先輩と少し距離を取る。


どうしよう。

ドキドキが止まらない。

私、なんか変。