「あれ? 先輩、風邪ですか?」
重い体を引きずりながらグラウンドへ向かうわたしに、後ろから男の子が声をかけてきた。
少し咳もしていたから、なんとなく気づいたんだろう。
「んー、大丈夫だよ。大森君」
「そうですか? 部活、休んだほうがいいんじゃないですか?」
「微熱だし、全然平気!」
「そうですかぁ・・・・」
「うん」
わたしと並んで歩きながら風邪の心配をしてくれた彼は、1年下の学年・2年の大森君。
人懐っこい性格で、子犬みたいなかわいい笑顔と剛速球が自慢の、うちの野球部・青雲高校のエースピッチャー。
稜ちゃんとは、去年の新人戦からバッテリーを組んでいる仲。
「じゃあ俺、先に行ってますね」
授業が終わってから20分くらい。
それなのにもう練習用のユニフォームに着替えた大森君は、左手にはめたグローブを高く上げて駆けだしていく。
彼に“うん”と笑顔を返すと、わたしもグラウンドに急いだ。
スーパーで見かける買い物カゴいっぱいに入った、泥だらけの野球ボールをせっせと運びながら。


