白球と最後の夏~クローバーの約束~

 
そして、練習が終わると、特等席になった自転車の後ろに乗っけてもらって帰る日々。

相変わらずわたしをドキドキさせる柑橘系のコロンの匂い。

それを胸いっぱいに吸い込みながら帰る、甘い甘い日々。

ゆっくりゆっくり時間をかけて、寄り道しながら2人で帰るんだ。


よく行くのは、やっぱり思い出の“あの場所”・・・・。

そこで、何時間も雲が流れるのをただただ眺める。

たったそれだけのデート。


だけどわたしは、それだけで胸がいっぱいで。

会話がなくても幸せで。

稜ちゃんの隣にいられることだけで、至福の時を過ごせるんだ。


「練習ばっかでごめんな? せっかくの夏休みなのに、どこにも連れてってやれなくて・・・・」


稜ちゃんは、空を見上げながらよくそう謝る。


「バカだね、稜ちゃん。稜ちゃんは甲子園に連れてってくれるじゃん!それだけで十分だよ!」


だからわたしは、よく稜ちゃんにそう言っている。

そうすると、稜ちゃんは“うん”って笑ってくれる。

・・・・少しだけ、淋しそうな顔をしながら。