この回の打順は、5番の大森君から始まる。

その大森君は、バチバチと太ももを叩いて打席に向かっていった。


わたしにできること、わたしにできること・・・・。

先生もみんなも自分にしかできないことをしている。

なのに、わたしは何も思いつかないし、何もない。

・・・・どうしよう。


手に握ったお守りは、いつしか自分がいた汗のせいで嫌な感触に変わっていた。

体の至るところから噴水のように汗が吹き出し、寒くもないのにガクガク震えている・・・・。


みんなの力になりたいのに、何もできない自分が悔しくて。

何かしてあげたいのに、何もしてあげられない自分が情けなくて。

わたしは急に自分が恥ずかしくなって泣きそうになっていた。


そんなとき───・・


「大丈夫だ。9回には俺の打席がまた回ってくる。必ず打ってみせるから、お前は心配すんな」


頭のてっぺんまでガクガク震えるわたしに、稜ちゃんがすっと声をかけてくれた。

その声で顔を上げると、にっこりと微笑みながら“大丈夫”とわたしを見下ろしていた。