そう言って、反射的に走りだそうとするわたしを止める稜ちゃん。

・・・・あれっ?


ぽさっ・・・・。


その拍子に、わたしの肩にかけてあった何かが地面に落ちた。


それは───学ラン。

・・・・と、土の匂いに混じって届く稜ちゃんの匂い。

練習で汗をかいた稜ちゃんがいつもつけている、柑橘系のコロンの匂いだった。


「ごめんっ!あのっ・・・・」


よく見れば、稜ちゃんはワイシャツ姿で。

慌てふためくわたしに、稜ちゃんはまた苦笑いで。


「熱っぽいんなら早く言えよな。風邪、ひかないようにって言っただろ?」


それで、落ちた学ランを拾いながら、上目遣いでそう言う。

・・・・やばい。顔がすごく近いよ。

わたしの顔はとたんに熱を持ちはじめて、心臓はバクバク、動悸さえしてきそうなほどだった。


「早く着替えて校門に集合な!」


そんなわたしのことなんて知る由もない稜ちゃんは、学ランをひょいと肩にかけると呆れたように笑った。


「・・・・い、急いで着替えてくるからっ!」