岡田君はそう言って、ゆっくりと腕をほどいてわたしから離れた。
男の子に抱きしめられたのは、これが人生で初だった。
誰ともつき合ったことのないわたしには、この“抱きしめられる”という不思議な感覚がずっと後を引いていた。
それでも、稜ちゃんと違う匂いに包まれていても、その向こうには“稜ちゃん”を求めている自分がいた。
「ほら、また泣く。もう泣くなって言っただろうが」
わたしから離れたときの岡田君の顔は、いつもの岡田君の顔で。
口調もいつもの岡田君の口調で。
それが逆に辛くて・・・・。
辛いのを我慢して笑う岡田君の顔が胸に突き刺さった。
「・・・・うん」
わたしは急いで涙をふいて、ぎこちない笑顔を作った。
わたしが笑っていないと、岡田君だって笑えないと思ったから。
岡田君の精一杯の気持ちに応えなきゃと思ったから・・・・。
「外に落ちてた傘とてるてる坊主は、俺のロッカーの中だから」
「ありがとう」
岡田君はそう言い残して、さっきより少し薄暗くなった外へ出ていった。


