「ここでいいの?」


風に乗って香る、潮の匂い。

静かなこの場所に響き渡る波の音。



「…うん。」


その海の近くには、一つだけポツンとお墓がたっている。



「ごめんね、遥。…行ってくるね」


どうしても、今日じゃなきゃダメだった。


「うん。行ってらっしゃい」


私が今から何をするのか察したのか、遥は私の頭を優しく撫でた。









───“姫野家”


そう書かれた墓前に座り、枯れた花を取り替える。

少し触れただけでカサカサと音を鳴らし、もう花とも呼べない花は粉々になって風に散っていった。