電車に乗るとき、自然と手は離れた。
3駅ほど電車で通りすぎた先が円の最寄り駅だった。


「あ、雪。」

駅を出ると、チラチラと曇り空から雪が舞っていた。

「道理で寒いわけだ。」

円はカバンをガサガサ漁ると、中から折り畳み傘を出して広げた。

「宮、傘は?」
「ないわ。降ると思わなかったし。」
「入る?」
「え、ああ。」

円の傘を受け取ると、予期せず円との距離が近づいた。

すぐ右からマフラーと同じ石鹸の匂いが香る。
くそ、俺は円か。
てか、この間の雨の日の相合い傘より距離近くないか?
本当無防備すぎんだろ。

「お前、近づきすぎ。」
そう忠告すると、円は至近距離で俺を見上げた。

「だっていい匂いだし。」
「あのなぁ。」
「あったかいし。」
「いいからちょっと離れろ。
別に雪だし、俺傘いらねぇよ。」

傘を円に返そうとすると、円はまた顔をしかめた。


「なんで…?
もうあの条件ないのに…」

「っえ…」

「好きになってもいいなら、近づいたっていいじゃん。」

「はぁ?」

コイツの思考回路読めねぇ。

「宮は私の気持ちが迷惑じゃないってことでしょ?
なら、近づいてもいいと思って…」

円は俺のコートの裾を掴むと、また距離を詰めた。

「ダメ…なの?」

ドキッ…

なんで…コイツはいつもそうやって…

鼓動が速まっていく。
こんなに寒いのに、顔だけ無駄に熱い。

『私の気持ち』ってなんだよ。
そんなの聞いたことねぇし。
どうせ『友達として好き』だろ?
コイツのそういう鈍感なところ、嫌いだ。

「……」

「宮…?」

円が不安そうに俺を覗き込んでいる。

もっと、

もっと
俺のことでいっぱいになればいいのに。






無意識に
本能的に
俺は円の唇にキスをしていた。



円は驚いた顔で後ずさりした。




俺でいっぱいになって、
俺が我慢してきた分悩めばいい。






いっそまた眠れなくなるくらい。