「お姉ちゃんはあの日からずっと失ったものはもう返ってこないって諦めてるの。
でもそんなの間違ってる。
私たち間違ったことなんてしてないのに…


だから私たちの手で、私たちの代で終わらせたいの」
そう言って俯いた佐野さんの瞳から一粒涙が溢れた。




ピーーーーーー
「うわやべっ」
ヤカンから聞こえてくる警戒音はお湯が沸いたことを知らせる。

あの話の後、父さんと話をする必要があると思い出して急いで家に帰ってきた。

玄関の扉を開けると、今朝まであったはずの靴はなくなっていて、リビングの机の上には白い紙切れが置いてあった。

【しばらく帰れない。すまないが何かあれば姉さんに】
それだけ簡潔に書かれた字は急いでいたのか走り書きで、紙は無造作に机の上に置かれていた。

冷蔵庫や冷凍庫を開けるとタッパーに詰められたお弁当やおかずが規則正しく置かれていた。一つ一つラベルがついているところも父さんらしい。

結局肝心なことは何も聞けていない。
情報量も多すぎる。
はぁ………
俺も足を突っ込んでしまってるみたいだしやるしかないんだな。

沸いたばかりのお湯でいれたお茶の匂いを嗅いで心を落ち着かせる。

一気に飲み干して残りをポットに移して眠りについた。