泡沫夢幻



「常盤くんは帰らないの?」
野崎が自分の鞄に荷物を入れながら問う。

水瀬は小走りで教室を出て行き、
颯太も陽菜の荷物を持って出て行った。
いつの間にか佐野さんは教室からいなくなっていて、

教室には俺と野崎さんの2人きり。

「用事があって…」
佐野さんが声を潜めたのには理由がある、
そう思ってあえて言葉を濁した。

「そっか…じゃあまたね!」
少し残念そうに、でも明るくそう告げた野崎さんは誰かに電話しながら教室を出て行った。


もう1度携帯を見ると1分前と表示された誰かからの通知の下に先ほど来ていた佐野さんのメッセージの通知が表示されており、それは4分前、と書かれていた。
「やべっ」

俺は教室を急いで飛び出して保健室に向かってひたすら走った。

途中女バスの集団とすれ違ってぶつかりかけたがなんとかかわして階段を2段飛ばしで降りる。


「失礼、しますっ」
「1分遅刻」
そうして辿り着いた扉が半開きの保健室に
一呼吸置く間も無く入るとそう一言、佐野さんの冷たい声が飛んできた。

佐野さんがまあ、そんなのはどうでもいいんだけど。と鼻で笑った時、
ポケットでブーブブッと一瞬携帯が震えた気がした。


「まさか奏さんの弟だったなんてびっくりよ」
確認しようとポケットに手を伸ばした瞬間、続けて佐野さんが言ったその一言に身体が思わず強張った。