母校でデート

第九話  「帰りの道」


やがて夕陽は沈み、辺りは黄昏色に染まり始めた。

西の低い空はオレンジ色に、高い空には青い夜空が広がっていて、
その境目辺りに一番星が光っていた。

クルマは中学校の直ぐ近くにあるコンビニに着いて家内と長女は
お握りとウーロン茶を買いに店内へと入って行った。

俺もタラコお握りを買ってきて~!と言いかけたが食欲も無く、
温かいウーロン茶だけを頼んだ。

僕もドアを開けて独り駐車場に降り立った。

夕暮れ時のコントラストが美しい、まるで幻灯機に投影された夕景に
街並みの影絵が浮かび上がっているような幻想的な情景にしばらくは
見とれて佇んでいた。

あの頃の下校時間、生徒たちが燥ぎながらも一目散に家を目指して、
賑やかに帰って行った場面が懐かしく甦っていた。

二人が買い物して戻って来た。

何故か僕は「おい、中学校の前を通って帰ろう」と言ってしまっていた。

家内はただ黙ってクルマを中学校に向けて走り出した。

長女が「パパ、さっきの女の人に逢いたいんだ?でしょ?ねえ、ママ、
さっきね、ユカが個人面談終わってパパのクルマに乗ったら、ゆうこ
さん~とか泣きべそ掻いてさ、デレ~っとしたアホ面になっててさ、
超可笑しかったあ~」

「ユカ!何てこと言うんだあ!そんなんじゃねえよ~!」

家内はそれを聞いてて静かな口調で切り出した。

「パパの初恋の人なんでしょ?ゆうこさんって」

「あ、あぁ、まぁ、そのぅ・・・」

「あっそっかあ、ユカが来る前にご対面~だったんだあ」

「会ってない!、い、いや、会った・・・いや、違う・・・」

「どっちでもいいじゃん、とにかくパパ、浮気、浮気ぃ~~」

「こら!からかうんじゃない!そんなんじゃないって言ってんだろ」

「タカヒロさん、頭痛薬飲んで眠り込んで夢でも見たんじゃないの?」

「うん、そうかもしれないな、夢うつつだったのかな~?」

「でも夢と現実が入り混じってしまうこともあるんじゃないの?だって
 タカヒロさんはいつも妄想が出てるでしょ」

「何馬鹿な事言ってるんだ、そういうのは想像力とか、空想家とか言えよ」

「あら、ごめんなさぁ~い、ふふふふ」

「実はな、お前たちが学校に入って行った後な、彼女と母校の周りを
 お散歩してな、写生会やった学校の目の前にある田んぼのあぜ道を
 散歩したり、校庭のベンチに腰かけて二人でコンビニで買って来た
 お握りを食べたんだ、アレは夢だったのかな~?」

「パパ、浮気、浮気い~~!」

「ユカぁ~、うるさい~!」