「ね、ねえ!」
・・・何?
影の持ち主を視界にいれると、そこには顔を赤らめた女子生徒がいた。
「律くんって呼んでもいいかな!あ、私は――」
ガタン。
ペラペラと喋る声がうるさくて、視線がうざったくて、わざと大きな音をたてて立ちあがった。
「え・・・?」
音が、消える。
視線が集まる。
好意、妬み、好奇心―――
いろんな感情がゴチャゴチャしていて、
「反吐が出る。」
無表情のまま吐き出した言葉は、静かな教室によく響いた。
「よろしくするつもりなんて、サラサラない。」
話しかけるな、見るな、関わるな。
教室中を一瞥して、足を動かした。
・・・気持ち悪いなあ。
あの子に、会いたい。
そう思いながら教室から出ようとドアに手をかけたとき。
「ひどい言い草だねえ、律クン?」
ゾワリ、と。
その声を聞いた瞬間、鳥肌がたった。
「っ、なに。」
振り向くと、そこには悪魔がいた。
悪魔?そうだ、悪魔だ。
肩につくかつかないかのところまでのばされた真っ黒な髪。
前髪も長めだが、その隙間から覗く瞳は・・・血のように赤い。
美鶴の瞳も赤だが、まるで違う。
美鶴の、純粋で透き通った宝石みたいな紅とは違って、見る者を絡め取るような・・・妖艶という言葉がよく似合う赤。
堂々とピアスをつけているし、日本の学校ってこういうの厳しいんじゃなかったのか?
いや、髪を伸ばしている俺に言えたことじゃないけど。
とにかくそいつは、悪魔、という名詞がぴたりとあてはまる妖しい美しさをもっていた。
・・・得体のしれない感じが、どうも好きじゃない。
「冷たいねえ、ちょっとくらい愛想よくしたっていいんじゃない?」
甘い、甘い声。
媚薬のようなそれに包み込まれていたのは、皮肉気な、挑発するような視線。
「さっき言ったの、聞こえなかった?馴れ合う気もない奴等相手に、どう愛想よくしろって?」
そうして相手に口を挟むすきを与えないうちに今度こそ教室を出た。
どこでサボろうかなあ、なんて考えていた僕は、知る由もなかった。
「へーえ?なるほどねえ。・・・面白そうじゃん。」
赤い目を光らせた悪魔が、不気味にその口角を上げていたことを。