はっきりと拒否の意思を示したが、弟の表情に変化は見られない。

想定内、とでもいいたげだ。

それにコイツ、一応確認しておく、と言ったからな。


これで終われば儲けもの、でもそうはいかないだろうから次の手を用意してるってとこじゃないだろうか。

他のメンバーもそう思ったのか、弟の次の言葉を待っている。



「―――なら、しかたがない。」



静かに彼はそう言って、俺の方に近づいてきた。


緊張が、高まる。


っていうか、コイツ案外背が低いのな。
170あるかないかってとこだぞ。

線も細いし、なんていうか、華奢。


現実逃避気味にそんなことを考えていると、ヒラリとどこからとりだしたのか、2枚の紙を俺の机に置いた。



「―――これの受理を頼む。」


「・・・え、これ、は。」



2枚の紙に書かれていた文字は、ほとんど同じ。

違うのは、名前だけ。



「退学届けだ。僕と美鶴の。」



サラリとなんでもないことのように言った彼。

退学届けって・・・そこまでするか?

予想を大きく超えてきた彼の手段に、言葉を失う。



「・・・美鶴は、納得してないだろ。」



戸惑いの声をまっさきに上げたのは、流星。

流星も美鶴のことを気にいってたから、余計に受け入れがたいのだろう。



「・・・僕は。」



流星の言葉に、初めて弟は顔を曇らせた。

ギュッと手袋をはめた手が拳をつくる。


「今まで、美鶴の願いならなんでもかなえようと努力してきた。」

「っなら!」



「けど。」


顔をあげた彼は、強い意志を秘めた瞳をたたえていて、俺たちは押し黙った。

何かを押し殺したような、我慢しているような。

温度のない宝石は、割れたらパチン、と何かがあふれ出てきそうに見えた。


それくらい、彼が危うい存在に、思えて。

それでも彼が″割れて”いないのは、強い意志があるから。


『すべては、美鶴のために。』


はっきりと言葉に出されたわけじゃないけど、その瞳を見るだけですぐに分かった。

無表情で、感情を表にださないくせに、それだけは雄弁に物語っていて。


ズルい、と思った。

これじゃ、彼を悪者扱いになんてできないじゃないか、と。

だって、彼はこんなにも必死なのに。

必死に、何かを守ろうとしているのに。


そんな彼から″宝物”を奪ってしまうというのなら。

俺たちのほうが、きっと、ワルモノ。




でも、譲れないから。

興味、出てきちゃったからなあ。


ワルモノにだって、なんだって、なってやるよ、律くん?