新 不倫



かくいう僕も・・
豊川さんと同じ力を持つ。


静岡県内でも有数のお寺として知られる“専浄寺”の息子として、

何か特別な血を引いているからなのか、

幼少期に直面した“母の死”という出来事が引き金になったのか。


とにかく僕も、
“そっちの世界”の住人だけど・・


問答無用に全ての死者が視える豊川さんと決定的に違うのは・・

僕は・・視える時と視えない時がある。

最近の戦績を顧みるとその確率は6割5分。



「・・・・・・・・・・・。」


もう一度、肩の力を抜いて気を落ち着かせて周りを覗う。


・・・・・・ダメだ・・。
やっぱり視えない・・。


防御創が無い無抵抗の不可思議。
更にはその身元は不明。


“あなたは誰ですか?”

“殺された時の状況を教えてください”


長くんが期待してくれたように、

こういう被害者が見つかった時こそ、僕のような力が貢献できるのに・・・。





「申し訳ございません・・。」


「まっ、気にするな。
俺達は基本に則って捜査するだけだから。

朝になったら正式に丁場を立てて、まずは被害者の身元特定からやってくぞ。」


「はい・・。」


「でも、左手薬指に【指輪】があったんだろ?」


「あ、はい。それが今のところの唯一の手掛かりです。」


「って事は結婚してる・・
って事は旦那がいる・・

って事は今ごろ旦那が探してるかもしれない・・

って事は“捜索願い”が出されてる可能性があるから、そっちの線からも当たるぞ。」


「はい・・!」



関本主任にもあらかた報告したところで、
今夜の現場検証を終える。


ここは豊川さんに頼るしかない・・。

朝になったら“元気飯”に直行しよう。