「帰ろっか」


多岐くんがふわっと笑う


そんな笑い方できたんだ


「うん!」


校舎内

まだ残っている生徒たちが行き交う廊下を2人で並んで歩く


私は多岐くんの彼女

自信を持って堂々とこの人の隣に立っていられる

それが死ぬほど嬉しい


ゲームの彼女でも

片思いの彼女でもない


好き同士の恋人


「ひなた、手」


下駄箱を出たところで多岐くんが私に向かって手を差し出す


「うん」


握り返せば、さらに強く大きな手が私の手を包み込む


「俺さ」

不意に多岐くんが言葉をこぼした


「本気で誰かを好きになったのって初めてだよ」


え?


「ずっと適当に生きてきたから、どうでもいいことにも本気になるひなたとは真逆だったのかもな」


どうでもいいことにも本気になるってなんじゃよ


「…あの日、迷っててくれてありがと」


…へ

迷う?

え…あ


「多岐くんもしかして…覚えてるの?」


私たちが初めて会った時のこと


「思い出した」


そう言って笑った多岐くんの背景は


確かにあの時私が声をかけられた場所だ


「あの時見つけたのが俺でよかった」


…うん


「多岐くんでよかった!」


それが運命ってやつだ


ニパッと笑って多岐くんの手を引っ張った



「電車きちゃうよ!」


「リードするのはいいけど迷うなよー」


「迷わないよ!!」


多岐くんのひとまわり大きな手をしっかり握って大きく足を出した