私に恋する可能性





「あれ、ひなた?」


…は?


聞き慣れない声に呼び止められたひなたの足が止まる


「お兄ちゃん?」


「は?」


思わず体に力が入ったのがわかった


そこにはスーツ姿の男性が目を開いて立っていた


その目が不定期に俺を見る


…ひなたの

兄?


「い、今帰り?」


「うん。なんでここにいるの?」


「営業の帰り…なんだけど、これから、か会社に戻る」


営業…



ひなたと同じ、人より茶色い髪色と目、白い肌と少しヨーロッパ系の顔


俺と大層年齢の差もなさそうな若い男性


その若さで営業に出るほど…優秀な


『しっかり』生きている人


その人の目が何度も俺を捉え、ついにはその口も動く


「え、あ…そ、そちらは」


動揺の声色


そして隣のひなたからもその色が少しする


「はじめまして…多岐遥です」


あまり使ったことのない敬語であまりやったことないお辞儀というものをする


ひなたの家族を前に、変な緊張で汗が出る


「は、はじめまして…ひなたの兄です。た、多岐遥くんはひなたの…えっと、お友達?」


…友達


「えっと…」



俺は友達じゃなくて、彼氏です



そう…言えるわけがなかった


俺はまだひなたに気持ちを伝えられない

ゲームの延長で続かせてきたこの関係


そして、彼氏と名乗るにはあまりにふさわしくない自分の容姿


明るい色に染めた髪、高校生なのに耳に開いた穴


俺の前にいるこの人は、若くして営業に出る優秀な人間


『しっかり』生きてきた、俺とは真逆の人間


自分の立ち位置を理解して何も言えなくなった俺にひなたのフォローが入る


「お兄ちゃん!早く会社戻ったほうがいいよ!私たち電車来ちゃうからもう行くね!」



ひなたに背中を押されてただ足を進めた