私に恋する可能性




しばらくの沈黙


時計の秒針の小さな音だけが響く空間


少し開いている窓から風が吹き込み自分の髪が揺れる


そろそろ


「帰ろう多岐くん、一緒に」


席を立ち上がり開いている窓を閉めた


…?


多岐くんは立ち上がろうとせず私を見上げている


…なんだ?なんか忘れた?



「ひなたは寝込みを襲いに来たんじゃないの?」


え?


多岐くんの私を見る目がいたずらに光る


「俺、待ってるんだけど」


多岐くんは机に両肘をついて、組み合わせた両手の上に顎を置いた


そして目を瞑る



ま、まさか…


私からしろと?


多岐くんが「ん」と促す


…うぅ



1回目は、初めて一緒に帰った時


2回目は、資料室で2人きりになった時


3回目は…

 放課後の、教室



ドキドキとやかましい音を立てる胸


普段の私なら大きな声で喚いていたかもしれない


…あーそうか


みっちゃんが言っていたのはこういうことか


私は多岐くんに恋をして変わった


この瞬間を、この気持ちを大切にする方法を知ったんだ


『可愛くなったねってこと』


そうかな?

そうだといいな



少し震える体を抑え


そっと、多岐くんに口付けた


一瞬

本当に一瞬


それだけで胸がいっぱいになるから



スッと目を開いた多岐くん


「みじけ」





「短い」


えぇ…


「やり直し」


えっ


「もう一回」


え!?



何を言い出すこの人


心臓無くなるから無理だよそんなの


熱を持った頬を隠すように俯き気味でブンブンと顔を振る



「じゃあ目瞑って」





少し戸惑ったけどまぶたはスッと降りた



微かに感じる多岐くんの熱


頬に触れる手

その手が私の後頭部に動く


それを感じた時、顔がぐんっと近づき

合わさる唇