「…あー…まじでごめん」
多岐くんが自分の前髪をくしゃっとした
無理だ…今多岐くんの顔は見れない
多分すごいキモい顔してる私
「あの、じゃあ私はこれで…えっと、ありがとうございました」
早口でそう言って赤くなった顔を隠すように急いで背中を向けた
「あ、ちょ」
多岐くんの声が聞こえたけど足を止めずに家に入る
バンっと扉をしめる
そしてしんとした家の中
ずりずりとドアにもたれかかったまま座り込む
…キスだ
私…多岐くんと
キスをしてしまった
真っ赤に染まった顔を抑えてバタバタと脚を動かす
私は多岐くんが好きなんだよ
だからそういうことされると心臓がめちゃめちゃ苦しくなるんだよ
多岐くんはいろんな経験をしてきた人で…
女の子とキスをするなんて簡単なことかもしれないけど
私はそうじゃないから
私は…多岐くんがどうしようもなく好きだから
多岐くんの一言にも行動一つにも胸が苦しくなる
…こんなの不公平だ
私ばっかりドキドキしてる
ゲーム相手だってことを忘れちゃうから
ああいうことを簡単にしちゃダメだよ多岐くん
多岐くんが私に恋に落ちる可能性だとか
そんなこと自信持って喋ってたけど
私が多岐くんに恋に落ちていくばかり
私ばっかり好きになっていく
自分の想いが強くなっていくのが少しだけ
怖い
多岐くんが私に恋に落ちなかったら
この想いはどこに捨てれば良いのか
わからない
だから
間部ひなた
自惚れるな
多岐くんにとって私は
ゲーム相手だ


