無意識に、本当に自然に手が動いていた


怖かったんだと呟いた彼女の頬に自分の手を添える


少しだけ冷えていて、俺の手に収まってしまうような小さな白い頬


心臓がうるさく鳴く


暖かくて、苦しくなるような


ドキドキという音


…ひ


『ひなた』


…呼ぼうとしたら呼べたと思う



だけど

もし今、ここで名前を呼んでしまったら…



何かに気付いてしまう気がして


今までに抱いたことのない感情が生まれる気がして


それがなぜか怖くて



ただ無言で間部ひなたを見るだけの時間が過ぎた


俺を見つめる茶色い瞳に吸い込まれるように動くことを忘れる



間部ひなたの温かい白い肌に触れている手


そこから伝わる優しい熱



こいつが俺を好きなんだなって実感すると


…なんだか変にいい気分になる


この気持ちを知りたいようで…知りたくないようで


ふと意識を戻すと間部ひなたの熱を持った目と視線がぶつかる


心臓が一際大きく鳴く






「…帰るか」


顔を横に向けてなんとも言えないこの気持ちを隠すように言った


「う、うん」


間部ひなたはハッとしてさっきまですくんでいた足を動かした


すると不意に俺を見た間部ひなたの動きが止まった


「ん?」


急に素っ頓狂な顔で見られて首を傾げると慌てて荷物を持って駆け寄ってきた


…かわi…


…っっ!?


え、まって今俺何考えた?


いやキモ!ちょ、しっかりしろ俺



軽く首を振って間部ひなたの隣を歩く


こいつ身長は別に低くないんだな


学校でこいつと並んで歩くのは変な違和感がある


そんなことを考えていたら文化祭がどーのとたわいのないことを
めちゃめちゃ楽しそうに話し出す


かなりどうでもいいことだけど、幸せそうに笑うから


のんびり歩こうとか思った