私に恋する可能性



その姿が数学教室から消えたとき、掴んでいた間部ひなたの腕の感覚がスルッと抜けた





ペタンと地面に座り込んでいる間部ひなた


…見たことない表情



いつも笑ってるか騒がしいかのどちらかのこいつ

今の表情は何を見ているのかわからない


ただ、恐怖が浮かんでいる

その体がブルっと震えた





「…大丈夫?」


なるべく落ち着かせたいつもの声でそう聞いた


「…うん、ありがとう…来てくれて」


へにゃっと笑う

こいつは本当によく笑う…特に俺の前では


「…何があった?」


視線を合わせるように隣にしゃがみ込む


「…いや…その」


間部ひなたは気まずそうに俺の顔から視線を逸らす


…普段はどうでもいいことだって嬉しそうに報告してくるのに

なんで本当に困っている時は声をかけないんだよ


花火大会の時だってそうだ

足が痛いなら痛いって言えばいいのに


…一緒に花火見たかったなら言えばいいのに



「間部さん」


ムカつくくらい合わない視線に腹が立ち

ぐいっと顎を掴み俺の方を向かせる


強制的に交わる視線

間部ひなたの案外薄い色をした瞳


「ちゃんと言え、本当のこと」


…茂木と間部ひなただけ知ってるとかなんかムカつくんで

ちゃんと俺に話してほしい


お前が悩んでるなら尚更


…頼れよ



間部ひなたの口が恐る恐る開く


「多岐くんに…手を出されたくなかったら、付き合ってって言われました」





は?



俺に?

なに、え


手を出されたくなかったらって何?


なんで俺が出てくんの?


茂木の目的はなんなわけ?


てか、付き合ってって…


俺じゃなくて茂木と付き合うってこと?


間部ひなたが?


なんていう脅しなんだよそれ


そんな、映画みたいなシチュエーションあんの?



ていうか…それって


間部ひなたは…どうするつもりだったんだ?