「…帰るか」
不意に多岐くんがそう呟きスッと立ち上がった
顔を横に向けてしまって表情がわからない
「う、うん」
でもこの一瞬のような時間がまた私の宝物になるんだ
ごめんねみっちゃん
これも私の秘密にする
さっきまですくんでいた足はすっかり元に戻っていた
私がのろのろと立ち上がるのを多岐くんは待っていてくれた
…
あれ、でも
これって
『だから帰りは一緒に帰らないよ。ずっとね』
リピートされる言葉
待っててくれてる多岐くんを見上げる
「ん?」
あ、いや
駆け足で多岐くんに近づいた
もう人がいなくなった廊下を並んで歩く
…
不思議だな
学校で、一緒に歩くなんてさ
「多岐くんのクラスは文化祭何やるんですか?」
「まだ決まってないよ」
あそっか
私も決まってないや
はやとちってしまった
「私文化祭の実行委員代表になっちゃったんですよ」
「え、そうなの?」
「的場くんのせいですよ」
「的場?」
あと犬飼先生
「多岐くんのクラスの実行委員は蓮斗く
「茂木ね」
またしても遮られてしまった
「も、茂木くんなんですね」
「あーあいつ寝てたから強制的に指名されてた」
あーなるほど
意外だと思った
私たちの話し声だけが響く校舎
普通の…彼氏彼女みたいだ


