しかし、答えを出す必要は…なかった
「おい」
っ
フリーズしていた私の耳に届く
低く、ドスの効いた声
蓮斗くんの私を掴む両手が一瞬緩んだ
その瞬間
ぐんっ!!
ものすごい勢いで真横に引っ張られる
バランスを崩し倒れそうになったところを誰かに受け止められる
…
その香りと、見上げた人物に息を呑んだ
…多岐、くん?
「…多岐」
多岐くんだ
バランスを崩した私の体を支えてくれてる多岐くんがいた
…
だけどその表情は、初めて見たものだった
冷たい視線、少し食いしばっているように見える歯
若干眉間に寄ったシワ
そして、低い声
「なんで…ここにいるわけ?」
蓮斗くんが決まり悪そうに言った
「的場が出てきたのにこいつが出てこねぇのはおかしいだろ」
的場くん…言ってくれたのかな
私が実行委員だって
「へー勘がいいんだねー」
棒読みでそう言う
「なんであんな状況だったわけ?茂木」
…ピリピリと肌に伝わる異様な感覚
あんな状況っていうのは私の両手を掴んで超至近距離にいたことかな
「…俺とひなたの問題だよ。多岐には関係ない」
多岐くんの眉毛がピクッと動く
「ひなた…?」
「ひなたはお前のためならなんでもやってくれそうだから、良いカモ見つけたなって思っただけ」
か、カモって言った?
今カモって言った?
「…どういうことだよ」
「お前には関係ないって言ったろ?」
なにこの空気
怖すぎじゃない?
何か言わなきゃって思ってたけど足がすくんで声が出ない
多岐くんと蓮斗くんの交わるようで交わらない鋭い視線に肌が痛い
「はぁーなんか邪魔入ったし、続きはまた今度ねひなた」
え…続くの?
あの地獄の選択続くの?
多岐くんと私の隣を通り過ぎていく蓮斗くん
その姿が数学教室から消えたとき、思わず足の力が抜けた


